（１７）アメリカ合衆国(2)　〜多文化共生社会に向けて〜

世界のさまざまな地域からの移民を受け入れてきたアメリカ合衆国は、「人種のサラダボウル」と呼ばれる多民族・多文化の社会を築いてきた。1960年代の公民権運動以降、文化や民族的背景の違いに寛容な社会へと変化してきた。

一方、増え続けるヒスパニックや不法移民など新たな問題にも直面している。ロサンゼルス大都市圏を具体例にして、多文化共生社会の現実を見る。

写真　（画像クリックで拡大）	説 明 な ど
	＜�@多民族が共存する国家アメリカ＞ 今日のテーマは、「アメリカ合衆国、多文化共生社会に向けて」です。アメリカ合衆国には多様な人々が住んでいて、多民族が共存しています。まずアメリカの人口構成を見てみましょう。 ヨーロッパ系（白人）が３分の２、アフリカ系（黒人）が１２パーセント、アジア系が４パーセントです。そして最近増えてきているヒスパニックが１４パーセントとなっています。 ヒスパニックとは、メキシコなど中南米から来た人々やその子孫のことです。アメリカは今も多くの人々を移民として受け入れ、さらにアメリカの市民権を与えています。
	＜�A移民と経済発展＞ アメリカ合衆国では９月１７日は、市民権の日です。１７８７年のこの日に、合衆国憲法が制定されたことにちなんでいます。 毎年この日に各地で、新たにアメリカ国籍を取得した人々の宣誓式が行われます。“国家の定める法律に従えば、誰もがアメリカ市民になれる”−アメリカ合衆国は、この原則に基づいて、さまざまな国の人々を受け入れてきました。 広い国土と豊かな資源に恵まれるアメリカ合衆国では、労働力の不足が大きな問題でした。労働力の不足に直面して、農業や工業においても、機械化や、経営の合理化・企業化を実現する努力が続けられてきましたが、それでも労働力は不足していました。単純労働から頭脳労働まで、さまざまな分野で移民が活躍しています。
（１）	＜�B移民の歴史 ＞ もともとアメリカ大陸には先住民族が住んでいました。１６２０年、信仰の自由を求める１００人ほどの清教徒が、イギリスからメイフラワー号に乗ってアメリカにたどり着きました。 彼らは東海岸に入植し、その後多くのイギリス人が移り住んで植民地を築いてゆきました。そして、１７７６年、東部の１３の植民地がイギリスから独立し、アメリカ合衆国が誕生します。 　 アメリカは、１７８３年、イギリスから領土を獲得、１８０３年、フランスから領土を買収、１８４５年にテキサス共和国を併合と、次々に領土を拡大していきました。そして白人のアメリカ西部への進出にともない、先住民族のネイティブアメリカンは辺境の土地に追いやられていきました。 また、南部のミシシッピ川流域には綿花畑が開かれ、そこではアフリカから奴隷として強制的にアメリカに連れてこられた黒人が働かされたのです。
（２）	奴隷制が廃止された後も、黒人などへの人種差別は深刻でした。１９６０年代、人種差別撤廃を求める運動が盛り上がり、人種差別を禁止する法律、公民権法が成立しました。こうしてアメリカは、人種や民族の違いに寛容な社会へと変わり始めたのです。 移民の出身地は時代によって大きく異なります。伝統的にはヨーロッパ北西部からの移民が主流でしたが、１９世紀末から２０世紀初頭に、南・東ヨーロッパからの移民が急増しました。 ２０世紀末にはアジアやラテンアメリカからの移民が急増します。特にヒスパニックやラティーノと呼ばれるラテンアメリカ系の人々が急増していて、この国の経済にとって不可欠の存在になっています。
	＜�C移民とアメリカ社会 ＞ 移民を受け入れるアメリカ社会では、時代によって移民に対する対応法が異なります。時代によって次のような考え方がありました。 ･アメリカ化（同化）論：多数派のアメリカに同化させるという考え方 ･るつぼ（メルティングポット）論：アメリカ人という新しい民族が誕生するという考え方 ･サラダボウル論：それぞれの個性を維持しつつ共存するという考え方 ･分裂論：行き過ぎた多文化主義は分裂につながるという考え方 このように、多様な人々が共存することは容易ではないのです。しかし、新しい移民は新しい活力をもたらし、新たな文化も生まれます。
	＜�D多様な文化から生まれる音楽 ＞ アメリカ・ルイジアナ州最大の都市、ニューオーリンズ。昔はフランスの植民地で、メキシコ湾に面した港町として栄えた街です。ここはジャズ誕生の地としても有名です。 さまざまな文化の人々が暮らすこの地で、ジャズは主に黒人たちの間から生まれました。奴隷として連れてこられた黒人たちには、主人である白人に抵抗するすべがありませんでした。粗末な家に住み、過酷な労働を強いられる毎日の中で、ほとんど唯一の娯楽が、歌と踊りでした。黒人たちは、故郷アフリカの音楽をアメリカに持ち込みました。 やがてキリスト教に心の救いを求めた彼らは、独特のリズムや発声で賛美歌を歌うようになります。こうした黒人たちの音楽を母体に、２０世紀初めにジャズが生まれたのです。
	ジャズは瞬く間に全米各地に広まり、ニューヨークでもブレイクしました。 １９２０年代のニューヨーク、ハーレム地区のコットン・クラブでは、多くの黒人エンターテイナーたちが活躍しました。　こうしてジャズは、アメリカを代表する音楽として世界に広がっていったのです。 今でも黒人音楽からは、新しい音楽が生まれています。牧師さんが元ラップ歌手というニューヨークの教会では、ゴスペルにヒップホップを取り入れています。
	＜�E多文化化の進んだカリフォルニア＞ アメリカ合衆国の西海岸にあるカリフォルニアを中心に、多文化の社会のあり方を見ていきましょう。 ここで注目されるのはヒスパニックの人々です。ヒスパニックはアメリカで政治的にも経済的にも重要な存在になりつつありますが、ラテンアメリカ的な生活文化を維持し、「アメリカ人にならないアメリカ人」と呼ばれています。 カリフォルニアは、ヒスパニックやアジア系人口の比率が高く、特にヒスパニックは、三分の一を占めます。ヒスパニックは労働者として、カリフォルニアの経済を支える存在です。
	＜�F不法移民の問題＞ アメリカとメキシコの国境には、メキシコからの密入国者を防ぐための高さ３メートルの鉄の壁がえんえんと伸びています。 それでも貧しさから逃れるため、毎日数千人の人が密入国をしています。そして、アリゾナ州全体で日々２０００人近くが拘束され、メキシコに送り返されています。
	ロサンゼルスの中心部にある衣料品の縫製工場です。工場で働いている人々は、ほとんどがメキシコや中南米から来たヒスパニックの人たちです。賃金は低く、一日の労働時間も長いのが現状です。 工場にとっては、安い賃金で働いてくれるヒスパニックの存在が利益をもたらしてくれます。 また、農場で働くヒスパニックの人たちもいます。中には不法移民もいますが、経営者は、不法移民とはいえ安い賃金で働く人手を雇おうとします。
	左上の地図は、メキシコ生まれの移民の分布です。メキシコ国境周辺から南部に広がり、これらの地域では著しい人口の増加が起きています。 ２００６年５月１日、不法移民への規制強化に反対する数十万人のデモが、ロサンゼルスの中心部を埋め尽くしました。 ロサンゼルスの人口のおよそ半数を占めるヒスパニックの人たちがデモの中心になりました。この日、ヒスパニックの人が多く働く工場や商店は軒並み休業、経済的損失はロサンゼルスだけで数十億円に達したといわれています。 移民を受け入れている国に密入国する理由としては、国境の北と南での大きな経済格差があります。アメリカに行けば豊かになれるという夢を抱くのです。しかし合法的に行くにはとても費用がかかり、難しいのが現状です。 全米には１２００万人のヒスパニック不法移民がいると考えられています。不法移民の取締りの強化、不法民の合法化をめぐって、政治的な問題に発展しています。 一般のアメリカ人は、不法移民の教育や福祉に税金が使われることに対して不満を持っています。また、不法移民がアメリカ人の仕事を奪うのではないかという不安もあります。しかし現実は、不法移民は既にアメリカの経済に組み込まれていて、不法移民でも生活できるしくみが形成されているのです。
（１）	＜�Gロサンゼルスの多様な人々と社会＞ ロサンゼルスはアメリカの中でもとてもダイナミックな地域です。そしてここは、住み分けの進んだ多民族社会でもあります。 ロサンゼルス大都市圏は人口約１６００万の西海岸最大の都市圏です。歴史的に多くの移民が入り、さまざまな人種や民族の人々が交じり合ってきた街です。
（２）	チャイナタウンです。中国人はアジア系移民の中でもっとも古くからロサンゼルスに住んでいます。　　　　　　　　　　　　 他に、日本人街や韓国街もあります。
	ロサンゼルスの中心街では、ヒスパニックの人たちを多く見かけます。ヒスパニック人口が増え続けるのに対応して街でも変化が見られるようになりました。 例えば、スペイン語のコンピューター・ソフトを販売したり、スペイン語を話す店員を雇ったりしています。 行政も、増えるヒスパニック有権者を意識した政策をとっていますが、学校では不法入国した人々の子供の教育費を誰が払うのかが問題になっています。
	市の中心から南におよそ１００キロ、人口１万３千あまりの町コト・デ・カサには、防犯体制の完備された高級住宅が並んでいます。住民の多くは１９９０年代の好景気で富を築いた白人です。このようにロサンゼルスでは、市の郊外に白人の住宅地が発達しています。 多民族多文化社会の現実を見ると、人種民族による住み分けが明確です。都心の西部にはアフリカ系人口が集中しています。そして、その東にはヒスパニック人口が集中している地域があります。さらに、アジア系の人口が集中するチャイナタウン、リトルトウキョウ、コリアタウン、などがところどころに分布しています。また、郊外が繁栄していて、経済的に豊かな白人が郊外に住んでいます。 多民族多文化社会は新しいものを生み出す潜在力を持っています。しかし同時に、偏見や差別も常に存在します。多民族多文化が共生するためには、互いの理解と、差別を解消するための積極的な努力が必要です。
	＜�Hまとめ＞

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